石川ローズ氏の漫画、『あをによし、それもよし』がめちゃくちゃ面白いので紹介します。
唐突に奈良時代にタイムスリップしたミニマリストの主人公と、ゆるくて憎めないキャラクターたちの織り成すコメディ作品。
ミニマリストの楽しさ、めんどくささ(!?)を両方味わえる作品です。
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あらすじ(ネタバレ注意)
突如奈良時代にタイムスリップしたミニマリスト会社員山上。
物のない家、天然素材の食器、玄米と塩だけの質素な食事、天然麻の衣類…そこは理想郷でした!
一瞬で奈良時代に馴染んだ山上は、友達になった気のいい小野老(おののおゆ)という下級役人の家で、共同生活を始めます。
逃亡農民の余(あまり)、鹿のスガちゃん、酒好きでなんか軽い大伴旅人、ネガティブすぎる長屋王、そして同じく奈良時代へとタイムスリップしてきた、ミニマリズムを捨てた元カリスマミニマリストフジワラさん(藤原不比等)…などなど、個性豊かなキャラクターに囲まれながらも、奈良時代をエンジョイします。
そして、とある誤解から山於憶良として生きることになった彼でしたが、政権を巡るいざこざに巻き込まれていき…というお話です。
見所
主人公のクセが強い
出典:石川ローズ『あをによし、それもよし』第1巻(ヤングジャンプコミックス)
こちらが主人公の山上さん。
クールなツッコミ役と見せかけて誰よりもボケ倒していくクセの強いキャラです。
タイムスリップごときでは動じず、奈良時代の人間相手に横文字を使いまくりミニマリズムを説くという空気の読めなさがじわります!
そうかと思えばこのシーンのように、ミニマリストの矛盾(結構どうでもいいこと)にぶつかり苦悩したり、カリスマミニマリストの裏切りに絶望したりと、ミニマリズムに振り回されている一面もあります。
この「めんどくささ」がこの作品の肝といってもいいでしょう。
老との会話もたまに噛み合っておらず、冷たい目で見られることも…。
でも、なんだかんだお互いのことを思って仲良くしてるのにはほっこりします。
作中の人間模様がリアル
出典:石川ローズ『あをによし、それもよし』第1巻(ヤングジャンプコミックス)
ミニマリストと一口にいっても、色んなミニマリストがいますよね。
山上さんもLINEやブログで、たくさんのミニマリストと交流をしていたようですが、回想シーンで思い出すミニマリスト達が、実在しそうなリアルさ…!
このシーンで「作者絶対ミニマリストだろ」と確信しました。
さらには「ミニマリストは自分が特別であるための手段」と言い放ちミニマリストをやめてしまったキャラクターとの対立なども描かれていて、ミニマリズムに対する考え方の違いや、ネット上での人間関係のこじれのようなものも、あるあるで面白いと思いました。
奈良時代に親しみが湧く
一般的にあまり知られていない奈良時代の庶民の生活が、きちんと描かれているのが興味深いです。
当時の制度や文化、都の様子などを下調べされているので、歴史モノとしても面白いです。
もちろんコメディなので厳密ではありませんが、実在の人物が登場したり、史実に基づくイベントが発生したりして、奈良時代に親しみが湧きます。
現代人の山上が発した言葉が大ブームを巻き起こして後の教科書に載ったり、2巻では実在の人物に成り代わってしまったりと、タイムパラドックス現象や歴史改変ががんがん起きてしまっているのも、面白いやらドキドキするやら。
この記事を書いている2021年2月現在、3巻まで出ていますが、今後の展開も楽しみです。
鹿、可愛いよね。
ミニマリストの表現が秀逸
出典:石川ローズ『あをによし、それもよし』第1巻(ヤングジャンプコミックス)
このシーンは、タイムスリップする前に会社員として働いていた山上さんの日常を描いたもの。何もない部屋で空気清浄機で体を清めるという、なんとも変態的なワンシーンです(笑)
このコマを見た時は、ミニマリストの私もつい噴出してしまいました。山上さんの行動は、常に共感半分、ツッコミ半分の気持ちで見ています。
「オレはいろんなもの置いて貴族のような気持ちになってみたいよ」と話す老に、「そんな家に住んだら…モノがお前のアイデンティティになってしまうぞ?」と返す山上は、めんどくさいミニマリストそのもの!笑
客観的に見た時、ミニマリストって理解され難いところがあると思うのですが、この作品はそれをうまく笑いに昇華しています。
このバランス感覚が最高です。
登場人物がみんな大らか
登場人物が全員大らかでゆるい!笑
タイムスリップしてきてこだわりを発揮する山上を全面的に受け入れ、仲良くしてくれます。
後に一緒に暮らし始める農民の余も、「なあところでおめえがよく言うみにまりすとってなんだ?」と聞くには聞きますが、「必要最低限のもので生活する意識の高い人種のことだ」と返されて「ふーん」と納得しています。
ある意味スルーされているともいえますが、現代人が好き勝手やってるのに、なぜか周りがそれを素直に受け入れて上手い方向へ転がっていく展開が、この作品のスピード感や爽快さに繋がっている気がします。
敵対する勢力やウザめなキャラも出てはきますが、みんな憎めないキャラクターばかり。
登場人物が良いキャラしてると、作品への愛も深まりますよね。
ミニマリスト抜きにしても面白い作品
以上のように、この作品はミニマリストに通じた作者さんの手で書かれたものですが、ミニマリストの方にもそうでない方にも、ぜひ読んでほしい漫画です。
たしかにテーマがテーマなので、「ミニマリストって何?」という方は、ネタがわからない部分があるかもしれません。
また、ミニマリズムをもっと真面目で高尚なものだと捉えている方や、ミニマリスト同士の内輪感が苦手だという方も、もしかすると少し抵抗があるかもしれません。
ですが、物語のテンポやキャラクター、笑いのセンスなど、作品自体のレベルが高いので、ミニマリストというテーマ性を抜きにしても、おすすめできる作品です。
山上の徹底した生き方や奈良時代の人々のシンプルな生き方を眺めているうちに、ミニマリストの楽しさや本質に気づかせてくれる、そんな温かい作品です。
皆さんもぜひ読んでみて下さいね。